小 熊 座 2019/6   №409  特別作品
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      2019/6    №409   特別作品



        燕来る         佐 藤 み ね


    伸びやかな羽音の翳り春来る

    湖に息樹々に息ある春の朝

    湖の陽を受けし木々より芽吹きけり

    春風や鼻を動かす牛の声

    湖風に明日の匂い初桜

    脳の皺伸ばして今日の桜見る

    鶯の息ととのえてまた鳴けり

    そよ風に表裏のありて桜散る

    花一片踏んで蝦夷の血が騒ぐ

    阿弖流為の影を追いつつ花の中

    懐中時計今を巻かずに花の下

    雲かくす花の下にて一つ老ゆ

    うららかに鯉は大きく光吸う

    鯉の背に落下とまらず夕日影

    さえずりの中の切株湖明り

    一木の黙うるみだす春の宵

    草朧影なき人に影のあり

    眼つむれば吾子と水切り風光る

    坪庭の陽射し返せば土匂う

    青空へでこぼこにある名草の芽



        『無時間』
  ~「語り継ぐいのちの俳句」展から  春 日 石 疼


    少女A少年Aを揺らす春

    永遠は無時間にあり枯葎

    どこまでも平ら瓦礫の春大河

    春暁や風向計の廻るのみ

    線量の不明な空へ朝桜

    神々にさらす船底春疾風

    板切れに数字の卒塔婆雲の峰

    堕天使のひと筆書きか螢火は

    夕焼を天蓋とせり水たまり

    冬空や祈れば波の音聴こゆ

    雪激しわが胸にもうひとり我

    棄てられて「おいでおいで」と雛人形

    春濤が吐きしはらわた瓦礫山

    寒の雨残る家にも瓦礫にも

    揚花火白一色に開きけり

    海抜一(メートル)大川小の春の泥

    桃咲いて幹の荒肌悲しめり

    われを見る被曝牛の眼春の闇

    一呼吸すれど動かず寒の星

    「俺はここだ」と狼の舌・目玉






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