小 熊 座 2020/2   №417  特別作品
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      2020/2    №417   特別作品



        鳥刺ジヤンの神秘         瀨 古 篤 丸


    埋火や自画像は口を利けずに

    襤褸市の鏡を出入りする人体

    長き襟巻鏡の中で人は老ゆ

    天使には硝子の背負子牡丹雪

    雪投げの子供のいくさ天の手も

    雪上の足跡飛べるかも知れぬ

    スケートの刃で描いてゐる十字架

    陰画紙を白鳥の列抜け出せり

    鍵穴は詩人の瞳緋絨毯

    天鵞絨と金の玉座と冬灯

    生は死の第一楽章冬の靄

    鳥刺ジヤン彼我行き来する枯野人

    消えてゆくダツフルコート冬薔薇

    海鼠夢見てゐるときの色深し

    寒落暉硝子の巣箱に死の育つ

    凍土やほろほろ鳥はアフリカ産

    避寒地の星となる詩人の傷痕

    雪虫やはるか彼方を戻り来る

    冬の霧生死を越境してをりぬ

    裸木がコクトーの星ひとつ生む



        神迎へ            神 野 礼モン



    十一月の朝日をのせて熱気球

    陽をのせて隠沼へ散る紅葉かな

    白菜の尻へたっぷり塩をふる

    一夜漬胡瓜人参蕪白菜

    冬の朝盥あふれるほどキムチ

    雁にも家族のかたち塒入り

    白鳥の声朝靄へ飛び立ちぬ

    冬の雁飛び立ち我は息白し

    落穂ふむふむ大白鳥も幼鳥も

    枯蘆が明日の空へ語り出す

    山門の先に影あり青木の実

    なで牛に話しかけてる雪蛍

    石地蔵の耳朶石蕗の花明かり

    夜更しのミシンの音や十二月

    待針の指先に触れ冴え返る

    栗駒山(くりこま)の裾の濃くなり冬菜畑

    雪原の膨らむ鬼房胆沢の碑

    風の電話に風のささやき冬すみれ

    神迎へ風の松の枝揺れやまず

    観音様の御御足濡らす冬の雨



        猩猩木            中 村   春


    バゲットを小脇に加茂川の冬日

    いつの間に下弦の月や鯖街道

    吊されて夜気に潤ふ酢茎石

    晴天の腹ふつくらといぼむしり

    さぼり来し大山銀座長十郎

    クレーン車の吊す陸橋雪催

    立冬やのの字に動く象の鼻

    マウンテンゴリラの手形足形銀杏散る

    猿山のボスのもんどり小春空

    ほどほどに生きて三色菫かな

    牡蠣の殻踏めば足下軽くなり

    赤い羽根つけて小泉八雲邸

    寒雀歩むアレグロヴィヴァチェ

    敬老日ピンポン球の転がり来

    海蛇の吊して売られ十二月

    人参しりしり雷婆の大盛りに

    大マスクして給水の最後尾

    オスプレイ猩猩木のピンク揺る

    ひっそり閑とホワイトハウス冬紅葉

    カシオペア地底絶えざる水の音





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