小 熊 座 2020/4   №419  特別作品
TOPへ戻る  INDEXへ戻る













      2020/4    №419   特別作品



        涅槃西風         土 見 敬志郎


    石打てば石のこだまや寒の明

    寒禽の声を集めて日当る木

    寒明けの光の先に海を置き

    寒禽や刃のごとく水ひかり

    一番館出て綿虫となる夕べ

    建国の日の太陽を胸に享く

    啓蟄の象おもむろに立上がる

    北窓開くはちきれさうな水平線

    春の雷水平線を引いて来る

    ふるさとや瞼開けば春の鳥

    涅槃西風谷より鳥を吹きあげて

    改札を抜けて脱ぎたる冬帽子

    春昼の水の隙より魚の声

    すつきりと村の明けくる春一番

    春の雪百の卒塔婆を濡らしゐる

    鳥雲や一族はみなちりぢりに

    立春の溺谷より大人の声

    田の神のまどろみ深き春の昼

    いちにちを陽炎として父母の村

    全身が言葉となって芽木の山



        春の音          伊 澤 二三子


    ウクレレを弾くや少女の初習ひ

    寒明けの橋脚の影走りだす

    箒目に立春の陽の靜かなり

    水琴窟の音の定かに春立てり

    カーテンに立春の影走りけり

    遠目にも燈台の白木の芽風

    日おもての蕗の薹つむ二つ三つ

    バス停の春の息吹の紛れなし

    垣通しを踏み分け登る阿弥陀堂

    こぼれ菜の花の叢り輝かし

    一雨につぼみ膨らむ風信子

    思春期の少女の影や風信子

    何事もなき一日や春の雲

    お亀笹揺らし出でたる初蛙

    入学児レゴの大箱抱きけり

    沈丁花四方の息吹かき寄せて

    うららかや児童館よりウノゲーム

    青年の好きな曲線桃の花

    蘭鉢の日差しを浴びて春を待つ

    暮鳥の句ハミングしたる春の川




パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
  copyright(C) kogumaza All rights reserved