小 熊 座 2020/5   №420  特別作品
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      2020/5    №420   特別作品



        つちくもり         郡 山 やゑ子


    花辛夷笑ひの壺を同じくす

    あたたかしされど吹きしく墓地の風

    マスク欲しと水子地蔵の声聞こゆ

    深爪の疼きふつふつ紫荊

    春浅し父の止まり木いづこへと

    つぼみ菜の小鉢に咲きし花ひとつ

    雁帰る体温計る列にをり

    鬱々と地球は回る木の芽風

    春疾風同心町を走り抜け

    チューリップ少し離れて話しませう

    春霖やゆるりと白い霊柩車

    春愁や鏡の中のものもらひ

    アネモネの眼圧徐々に上がりをり

    ティータイム雀隠れや雀待つ

    透明人間の魔の手が伸びる春

    ふらふらと茶柱立ちぬ桜もち

    勘違ひのままに生きをる薄氷

    目に見えぬ魔物に怯え霾るや

    鳥雲やがらんどうなる胸の内

    懐の鬼が顔出す春日かな



        春 雷          鎌 倉 道 彦


    青葉騒学校という檻のあり

    少年は全身筋肉藤の蔓

    なんと早熟の子よ山繭の艶

    宇宙にはブラックホール蟻地獄

    夕焼けやみな疲れ立つ交差点

    夏座敷また這っている母の影

    むきだしの母の目がある夜長かな

    反骨はまだあり霧を深く吸う

    風花の窓辺や母のあらき息

    冬の月まだ温かい母に死が

    冬夕焼病院裏の霊柩車

    冬の陽や逝きたる母の肌のしみ

    冬銀河母の杖ある棺かな

    棺の釘打つ冬空に星ふえて

    みな寡黙なりみちのくの雪嵐

    風花や荼毘の焔に母の翳

    雪片のうらがえり裏返り遺骨

    母逝きて冬満月へ息を吐く

    春雷や墓に納める母の骨

    遺品みな母の抜け殻鳥帰る



        三、一一 忘れない    神 野 礼モン


    啓蟄や目の爛爛と竈神

    中陰の潮の香届く黄水仙

    校庭にパンジー精霊かと思う

    校庭の隅に寄り添う犬ふぐり

    「大川小」に影なき声や草の花

    幼霊は笑顔のようです石鹸玉

    貝に貝寄り添う三月十一日

    春風や安波山より空仰ぐ

    黙禱の安波山へと春疾風

    津波からずっと見ている猫柳

    三月の一本松のみどり濃く

    災害を生きのび一本松うらら

    三月の海に賢治を朗読す

    陽をのせて広田湾からしゃぼん玉

    「漂流ポスト」の便り目覚めよ蕗のとう

    三月をつなぐ想いの「風の電話」

    鎮魂の海へと桜さくらかな

    頑張れともう言わないで鼓草

    ブルーインパルスの五輪へと初雲雀

    三月の流行病(はやりやまい)にマスク縫う





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