小 熊 座 2021/4   №431  特別作品
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      2021/4    №431   特別作品



        黙 読          渡 辺 誠一郎


    わが禿頭へ降臨のごと冬の蠅

    腹筋は次第に細り冬林檎

    感染も被曝ももやと雪しんしん

    密集に遠き距離あり冬たんぽぽ

    黙読の前の黙食花粉症

    春愁のわが息を吸う空気清浄機

    産道のなき草木や春闌

    春昼の胸筋を張る盲導犬

    豆撒くやまだ見ぬ鬼の胸板に

    亡き父母はともにKrebs花山椒

    スペインへの夢ちりぢりに姉の逝く

    またの世の春へと姉は旅立ちぬ

    春埃我師元南満州鉄道調査部長

          福島県飯舘村
    飯舘の黒牛ふくしまの心の臓

    黒牛の心臓だけが落ちている

    更地から生まれし空を春という

    今日までの十年愛し柳の芽

    地上すべて被災地なんだこっちゃ春

    傘立てや置き忘れたる寒椿

    阿武隈の疾駆の影は白狼なり





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