小 熊 座 2021/12   №439  特別作品
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     2021/12    №439   特別作品



        露 草         平 山 北 舟


    露草の露は二万の御霊かな

    露草の露に大小朝日さす

    露草の轍に残る露の色

    朝日子に露草の露かくれなし

    遭難者のケルンに秋日留まれり

    色鳥の雨後の煌めき一身に

    色鳥や松島湾に光充つ

    蜻蛉の羽を透かせば風の色

    蜻蛉の眼疫病の町を映さざる

    いつのまに消えしコンビニ蓼の花

    曳かれつつなほ煌めけり鬼やんま

    盆踊り影あるものも無きものも

    幼霊の流星がまた母の国

    松消えて波音高し天高し

    伊豆沼のかりがねの声迫る闇

    荒城を攻め落としたる葛かづら

    風待ちのパラグライダー秋高し

    土塊の匂ひ残る掌晩夏光

    二万の声籠もる葎や雨しとど

    ハモニカの軍歌の遠し夜店の灯



        帰還兵         江 原   文


    穴まどひ赤き舌もて水すする

    肩掛けに魔を跳ね返すミラー刺繍

    いくたびの戦禍くぐりし来し毛布

    少年の飢ゑたる手足ちちろ虫

    分かち合ふ蜀黍スープ一皿を

    実石榴や身ごもりし母国追われ

    月光の映しだしたる子の瞳

    コーランの響くモスクや十一月

    戦闘機飛ぶ空にして星月夜

    死者にみな名のありていなびかり

    人影すべて闇となりしか虫すだく

    前世は虫でありたる土動く

    一木は白骨となり月に濡れ

    弾痕の残る門扉や草の絮

    難民のたどり着けない秋の潮

    産土は焦土となりて鳥渡る

    アフガンの砂利の水路も水澄めり

    狙撃兵の指引金に秋の風

    活断層蛇はとぐろを解き放つ

    星月夜濃しまつげ伏せたる帰還兵



        再 会         大 西   陽


    セピア色の家族写真とポポーの実

    抜け殻のやうな吾あり曼珠沙華

    いわし雲不破の関まであと三里

    がらんどうの母の部屋なり紫苑咲く

    朝霧はミルク色なり母の椅子

    緋のカンナおのれの高さ持て余し

    籾殻の山に煙突コロナの世

    トラックの荷の鶏や秋暑し

    羊水の記憶ときどきねこじゃらし

    足の先より呼吸せり虫すだく

    頼芸の美濃を離るる鷹十羽

    哀愁のカサブランカのにあふ案山子

    マグマはふえ蝙蝠はぶら下がり

    おはぐろや就いて来るなと妣の声

    盲導鈴響くホームや秋夕焼

    姉妹とは似て非なるものくわりんの実

    枸杞の実や上り框の高きこと

    ぽつてりとアデリアグラス秋の暮

    美濃和紙のにほひほのかに秋の蝶

    たましひに色あるとせば石榴の実





 
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