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2022/3 №442 特別作品
朝 日 須 﨑 敏 之
わが旅と等高刻む冬かもめ
身のほとりとは鶲来て糞まれる
水郷に時雨一刷毛雑魚の漁
年詰まる竜舌蘭は雲を吐き
数え日の往還に出て影となる
朝日の家枯蓮ばかり戦ぐなり
西明りむくろじの実が鈴振れり
草の実の膂力というに憑かれたる
見飽かざり降臨も無き冬の湖
北風小僧集合写真から吹っと消ゆ
雪の夜のわが家を巡る貂の夢
たまの雪大正橋を燻らせる
ロゼットと呼び金剛の霜の芽よ
霜深し薬効に我安んずる
関東冬晴ことばに出せば吹っ切れる
街道を瀬風がみがく達磨市
秩父かの臘梅探路山青し
山闇に乳歯の如く梅ほつれ
三ヶ日空気遠近法に富士
大寒の朝日に燃えて昇るのか
春の足音 神 野 礼モン
降る落葉水琴窟の中にまで
エプロンを外せしのちの屠蘇の酔
朝日受け無縁仏の雪払う
不動明王の目玉の濡れて初日影
日が届く廊下の隅の冬の蠅
オノマトペ降ってきそうな冬の星
冬桜天之御中主神御座す
掛軸のかたと揺れたる鬼房忌
鬼房の句碑に陰あり桜の芽
溺谷春の足音ついてくる
檻の駱駝に春の足音聞こえるか
フラミンゴ片脚立ちし春を待つ
檻の鷲人近づけば瞬きす
猿はみな違う貌して冬木の芽
待春のチンパンジーの叫び声
尻尾ふりふり糞をするカバ春近し
ゴリラは背こちらに向けて春隣
クロサイは泥浴びが好きまもなく春
春よこい麒麟は雲を舐めたがる
冬日和麒麟に翼ありません
俳句通信 瀨 古 篤 丸
祖母と母をさめし一山夏の雨
靄はれてスローモーション的に揚羽
暗黒舞踏のごと孑孒の舞ふ
十薬の増ゆ遺失物預り所
誰も居ぬ酒蔵を吹く扇風機
ひやおろし身中にある洞いくつ
ハイスピードカメラで見たき蟻の列
五辻の信号を無視夏の蝶
耳鳴りのおよばぬところ朴の花
魂魄はまだ土にあり沖縄忌
東京の妻へと賜りたる鰻
墓洗ひ終へる間際の日照雨かな
秋の蚊をはらひて柘植の翁塚
たましいの数にはたらぬ吊し柿
追切りの馬場の朝空鳥渡る
秋の雨上がり東京絹びかり
もののけの音立てながら落葉搔く
百までは数へて杣の冬の星
酒蔵の壁に残りし古暦
神棚に次いで仏壇初灯
朝 須 藤 結
梟や親類皆々居て巣
叱責の最後忘れてクリスマス
古里の雪光る朝支度かな
冬空に渋滞予測の声遠く
小春日や吾子二人抱き里帰り
炬燵抜け帰る話をぽつぽつと
重ね着の子らの声あり古団地
悴むや義兄さん丁寧な掃除
長旅の湯豆腐幸せ色の出汁
毛糸編む子らの世界が始まりぬ
久しぶりに実家に帰省した。コロナウイルスの感染症の状況を見て、仕事も早めに休
みを取り「えい」と新幹線に乗った。人込みを避けるため時間帯にも気を遣った。息子
二人は久しぶりの外出に嬉しそうだ。もっと言えば新幹線に乗っている人がみんな嬉し
そうに見えた。座席を三席連なって取れなかったのだが、子ども達と私の様子を見て、
席を快く交換してもらった。
水沢江刺駅に降り立った時、母が駅に迎えに来てくれた時、実家の炬燵に入った時、
実家のご近所さんに会った時、「ああ。自分はもうここに住んでいる人ではないんだ
な」と痛感した。だからこそ、久しぶりの帰省のありがたさは計り知れない。
年が明けて、今度は後から合流した旦那と車で子ども達の実家になる場所に帰った。
道中「あれが楽しかった」「これが楽しかった」子ども達の話は止まらない。子ども達
の時間は今まさに進んでいる。 (結)
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