小 熊 座 2022/4   №443  特別作品
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     2022/4    №443   特別作品



        陸奥の春         佐 藤 み ね


    冬菜いま光の中で深呼吸

    湖の色ほのかに動き春隣

    象の鼻大きく上がり春来たる

    外灯のほんのり見ゆる余寒かな

    雲流れ木の芽ふくらみ沼明り

    橅の芽に水音あふれ雲一片

    啓蟄の空に羽音や旅心

    囀が朝のひかりを弾きいる

    囀の木々を映して湖光る

    ぼた雪に蝶の精霊乗って来る

    水脈を探す初蝶風を追い

    山峽に水の音して燕来る

    楼蘭はむかし地続き黄砂降る

    陽炎やひっくり返す砂時計

    川底の石の声して夕朧

    裏山の闇うるみだす春の月

    春の夜の波の膨らみ魚眠る

    春月のよどみとなりぬ沖の石

    亡き人の足音のして春の月

    土のせて顔だす蛙鳥の声



        根の国へ         丹 羽 裕 子


    冬茜阿武隈川の氷りおり

    土に帰る御仏のありぬ霜柱

    思い出の一つ寒夜の絵蠟燭

    再びはこの世に生れず冬銀河

    角砂糖にはスプーン氷壁には鳥人

    医王寺の参道に供華枯四葩

    雪の墓ずぶずぶずぶと根の国へ

    いつのまに乙和椿は枝伸ばし

    源氏車紋雪の降る音のやさしかり

    アーチ橋にまず架かりおり春の月

    折鶴の知らないものに春の雲

    口答えしても父の子木瓜の花

    朝日子の踊るようなり福寿草

    初蝶や帰れぬ双葉心あれど

    墓はみな海へ傾く春また来る

    母の忌や天底抜けて春の雪

    魂は一つまだ迷ってる落椿

    芹濯ぐ川音清く山高し

    咲きながらまた散りながら梅真白

    豆腐屋も墓も我が町初つばめ



        鉛 筆          小笠原 祐 子


    鉛筆の歯形くっきりヒヤシンス

    白鳥やホチキス留めが乱れてる

    狐火やビーカー割れる化学室

    イヤホンで作る結界冬の梅

    ハンガーに吊るされている隙間風

    五線紙を散らばしており忘れ花

    冬の雷角度合わせる譜面台

    筆箱に隠す手紙や竜の玉

    メモのないメモスタンドに冬の月

    引き過ぎた蛍光ペンや都鳥

    冴返る画鋲残りし掲示板

    寒鴉指が覚えている算盤

    稟議書の印影傾く寒の明け

    如月や付箋だらけの文法書

    リモコンで換えたき三寒四温かな

    蛇穴を出でて鉛筆転がりぬ

    試し書き楽しきボールペンに春

    タッチペンのかたき音して雪解風

    タブレットに滑らす指や春炬燵

    ディスプレイのTODOメモや春の雪





 
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