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小熊座・月刊
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2022 VOL.38 NO.444 俳句時評
俳句のマンガ
及 川 真梨子
私の担当回では、何回かに渡って金子兜太の対談を読み解いてきた。半ば自分
を納得させるためというのが執筆動機であったため、話が飛んだり、くどくどと同じ
ことを書いたり、根拠のアヤシイことを書いていたと思う。まあ、本格的な評論はそ
の道の人に任せて、自分の句作に活きる思考ができればマル!との思いもある。
しかし、それなりには懸命に書物に向かって書いていたので、今回は力を抜いて
(シメキリにも追い詰められているので)、自分の好きなことを書きたい。好きな
ことはなんと言ってもマンガだ。
といっても俳句から離れてしまっては誰かに怒られてしまうので、俳句や、せめて
文学作品をテーマにしたものを皆様に紹介していきたいという次第である。
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紹介の前に前置きを書きたい。
そもそも私の半生が、ほぼほぼマンガで埋め尽くされていた。父の本棚が数本あ
り、全部マンガ。昭和の名だたる傑作に幼少期から触れられる環境にあった。初め
て読んだ少年マンガが、手塚治虫の『鉄腕アトム』、少女マンガが萩尾望都の『ポー
の一族』だったのは覚えている。1970~80年代の傑作を押さえつつ、少女マン
ガもバランス良く所蔵されていた。「花の二十四年組」と呼ばれる少女マンガ家たち
の著書がそろっていたのは本当にうれしいことだと思う。文学知識、詩的味わいの
濃厚な年代であり、マンガ表現や文法が円熟していた時代だったと思う。私の感性
にも大きく影響しているのではないだろうか。
今こそ俳句に仕事に忙しく、マンガの購買ペースは落ちたが、毎月常に数十冊は
新刊が出る状況なので、たちまちマンガの山が積み重なっていく。私の新居は今マ
ンガと俳句の本とが半々というところだろうか。
さて、現代にも有名で面白いマンガがたくさんあるが、ときどき出てくる妙にマニ
アックなジャンルのものに心引かれる。それらは、取材や監修に基づいた専門的な
知識が説明されているため、とても勉強になるのだ。絵による説明と物語的情緒が
伴うことで、マニアックな学術マンガ(と私が勝手に呼んでいる)は、とてもわかり
やすい入門書になっている。
念のため、言っておくが、学習のための説明的なマンガではなく、普通のマンガ
雑誌に連載されるストーリーマンガだ。
最近ためになったものを思い返すと、博物館運営や、深海生物、数学、児童精神
科医、医療ソーシャルワーカーなどがあった。いま注目している世阿弥のマンガも
とても良い。
そんなマニアックなマンガの中で、主に2010年以降、良質な文学ネタ、俳句ネ
タのものいくつかあるので、是非ご紹介したい。
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一つ目はこちら。
◆『あかぼし俳句帖』(全6巻)
原作:有馬しのぶ、作画:奥山直
発行:小学館(ビックコミックス)
俳句を題材にしたマンガに、俳句甲子園が舞台の『ぼくらの17―ON!』(アキ
ヤマ香、双葉社)がある。存在は知っていたが、青春!という感じの雰囲気で手に
取るまでには至っていなかった。
そんななか書店で見つけたのがこちらの本。
あらすじは、広告代理店に勤め、窓際でつまらない毎日を送っていた主人公のお
じさんが、俳句に出会ってその楽しさに目覚める、という話。
掲載誌がビックコミックスということもあって、青年というより壮年世代を狙った
作品だろう。とても落ち着いていて、ギャグの落とし所は鉄板で読みやすい。
この作品の着目すべき点は、オトナの俳句の初心者がいかなる道をたどって俳句
にはまっていくかということを、丁寧に描いているところである。初めて句会に参加
し、歳時記とメモ帳を持ち歩くようになり、吟行に行き、若者もご年配の方も入り交
じった交流を楽しむ。初心者の照れくささや、他人へ意図を伝える難しさも押さえて
いて、とても好感が持てた。
俳句経験者であれば、その経験あるあるといって楽しく読めるのではないだろう
か。俳句ってなにするの?と聞かれて、こんなことやってるの、とこのマンガを差し
出せば俳句をやらない友人への説明が済む。
出てくる俳句は、季題に沿った落ち着いたものがメインという印象だが、俳句作品
ではなく、俳句を趣味にする人の営みに焦点を当てた作品といえる。
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二つ目はこちら。
◆『ほしとんで』(全5巻)
著者:本田、監修:堀本裕樹
発行:KADOKAWA(ジーンLINEコミックスシリーズ)
今時の、スマホで読むことを前提にネットで連載された作品。芸術大学の文芸学
部に進学した主人公が、俳句ゼミに入り、奇妙な仲間たちと俳句を学んでいくという
お話。
書き手も主人公も若者ということあって、登場人物のノリが今風のオタク、サブカ
ル味が強い。世代によっては何を言っているのかわかりづらく、読みにくさがあるか
もしれない。
しかし、さすがの堀本裕樹さん監修とあって、俳句知識がとてもしっかりしてい
る。最終巻で連歌まで扱ったので、私は大っっ変勉強になった。とっつきづらい文法
や歴史的背景、俳人や文学者の持つ独特の感覚というものをこぼさず描いている。
モノ書き的な黒歴史がある人は心当たりがアタタタタ…となるかもしれない。キャ
ラの軽さ、多様さ、エンタメ感と、古典知識が非常に良いバランスを取っている傑
作。
どちらかと言えばおすすめするのは、俳句をやり始めた十代~三十代といったとこ
ろ。しかし、俳句骨法を押さえておきながら、この「詩を作るときの思考」が、絵に
よる表現を伴って描かれているところは、高く評価したい。次回も許されれば何作
品か紹介したい。
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