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2022/7 №446 特別作品
指 輪 日 下 節 子
嵌めてゐたはずの指輪や青葉木菟
溜息をひとつ漏らせば夏来たる
桐の花仰ぎてあの世見はるかす
賜はりしわが八十を羅に
灯を一つ点して夕餉豆ごはん
蚕豆の莢太りたる山の陽に
墓山の一歩に老鶯またも鳴く
老鶯の声よく通る母の墓
葉桜の影満身に寝釈迦さま
手を振らぬ別れや真夜のほととぎす
青嶺聳つわがふるさとを懐に
さざ波は光を紡ぎ瑠璃蛺蝶
田水引く田の神さまの思し召す
蔵王嶺を映して余る植田かな
青田はや根付きの色となつてをり
見下ろすや青田の果ての太平洋
ほうたるや夭折の子ら呼びにゆく
ほうたるの一つは星に呼ばれゆく
実方中将の墓所や青葉闇
実方の御魂のこもる今年竹
箱階段 斉 藤 雅 子
足跡を消してゆく波啄木忌
馴染みたる下野訛諸葛菜
逃水を追えば隧道少年期
靴紐は少しきつめに蝶の昼
御仏の眼尻よりの桜東風
窯入れの仕舞いのひとつ春夕焼
湾に沿い光放ちて卯波立つ
葉桜の木洩れ日とせむ晩節を
地震多き国に色増す額の花
真夜の居間浮遊している熱帯魚
夫との会話の狭間心太
たんぽぽのこんなところで躓きぬ
金次郎だけの校庭花は葉に
無縁墓なるか囀に埋もれいる
露草の青よ恙なきひと日よ
彼の世とも逢魔が時の鰯雲
秋冷の箱階段の鈍き艶
木犀の香を挨拶に出勤す
秋天を摑んで回る観覧車
剣山の芯となりたる愁思かな
一本松 椊 田 浩 子
祈り込め一本松に春日差す
竹秋の水は豊かに有備館
目瞑れば見える城山花の頃
堅香子の天平色に咲きにけり
穀霊を背負ひて辛夷咲き初むる
生き急ぐことなき根つ子滝桜
野に置けとばかりはびこる菫かな
嘘吐きが戦端切ると亀の声
半仙戯漕ぐや戯々と拍子取る
さくらんぼ咲きて羽後今白づくめ
生れし子は双乳握る桃の花
太陽へ掛け声東都の朴の花
村中の男が野焼き鳥海晴
早乙女へ笛を投げやる若衆かな
風車塔村搔き混ぜる緑の夜
川欠で成る三日月湖雄物川
焼芋食ぶ一言居士三ケ一
露の世の物の怪でありオミクロン
フジ夕描く秋田の行事帰り花
無為徒食の我が勲章の牛膝
ウクライナ・ドクトリン 森 青 萄
藤の雨片手利かぬと告げし墓前
こどもの日着弾のごと大地震
せんせえせんせえと泣く子の陽炎えり
ぬるま湯につかつておればあいの風
春雷が落ちて店内夜となる
百囀や四百万人の餓死ホロドモール
憲法記念日宇克蘭的専主防衛
附子湯や空襲警報鳴り通す
雑草園順調に初蝶を待つ
ひとむらは風の領分こごみ摘む
毒汁もくすりなるべし草の王
山の藤ふりながめ来て老いにけり
コメディアン笑わせ泣かす源五郎
捨て石でも犬死ではないアゾフスターリ
露人プーチン震えきて牡丹ひきちぎる
麦育つむこうに不倶戴天の敵
最期までアゾフ戦士や五月尽
彼の人ももがくだろうか火蛾のごと
籠りおれば手製のジャムに黴生えし
ただならぬ夏に継ぐ息キリル文字
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パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
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