小 熊 座 2022/8   №447  特別作品
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     2022/8    №447   特別作品



        雪 螢         植 木 國 夫


    大寒や湯気の仔牛の立ち上がる

    菜の花の見えて汚染土春の貌

    倒れゐる墓を離れぬしじみ蝶

    今年また村に一軒幟立つ

    首筋の痣に見覚え祭笛

    木偶つくる婆の指先桐の花

    捨てられぬ歳月芥子の花真っ赤

    牛小舎に牛居ぬ麦稈帽ひとつ

    試験田の田植の糸の歪みをり

    人住まぬ村を獣や梅雨の星

    向日葵の後ろ錆ふく猫車

    葬列は祭りのごとし朝曇

    日盛りの石に坐りて流人めく

    浜木綿や石を並べて供笥とせり

    黙禱の一塊を呑みやませ吹く

    準備宿泊まづは除れない黴拭ふ

    痩せ牛の蹄ゆがみし冬の雨

    海鳴の見えぬ堤塘夕千鳥

    原子炉デブリ冬の大三角形

    廃炉へと幾千万の雪螢





 
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