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2022/9 №448 特別作品
地球の匂ひ 鯉 沼 桂 子
桑の実や言葉に羽のありし頃
岩攀ぢて真昼の闇へ蔓あぢさゐ
なにほどの世をさかしまに女郎蜘蛛
裏木戸の夕かなかなに子の立てり
蔵町の路地出て路地へ白日傘
ままごとの茣蓙を外れて片蔭り
魚群めく電車の灯り遠花火
本殿の千木より高き夏欅
隙間なき絵馬の重さへ夏の雨
踏み込めば地球の匂ひ草いきれ
球場へ飛ばす自転車父の夏
七十のこの手に包む蛍かな
つぶやきのやうな雨粒葉鶏頭
おしゃべりの途絶へし秋の麒麟草
枇杷太る真昼の弦楽四重奏
砂利道をダンプ肩振り鵙日和
図書館の椅子の軋みも九月なり
水琴窟山河につづく音澄めり
音たてて蚕のやうにレタス食む
鰐口の綱のゆるびへ晩夏光
南風渡る 志 摩 陽 子
老鶯のひとしきりなり昼下がり
沖に出て輝き増しぬ夏の雲
まだ恋を知らぬ子同士草矢打つ
ひたすらに詠ふがよしと青葉木菟
青葉木菟兄も姉妹もとうに逝き
里山を巡りうぐひす音を入れる
音を入れるうぐひす谷戸に家五軒
浜風の通る軒端の貝風鈴
苦も楽も生きる証や水を打つ
ぎしぎしの花摘み帰る散歩かな
人生は出会ひと別れ星涼し
哀しみを掻き消すやうな夕立かな
コロナ禍の家居を癒す慈悲心鳥
一打のみ家を揺るがす火神鳴
夕風に乗りひるがへる夏つばめ
うす雲のたなびく里の仏法僧
南風渡る半島鳶の声しきり
打花火汽笛鳴らしてフェリー出る
母を待つ兄弟揃ひの半ズボン
食細くなりても好きな穴子鮨
夏山十景 水 戸 勇 喜
若き日の縦走おもふ夏の嶺
老杉の宮居に夏の痩せ祠
取沙汰の風の発電やませ吹く
過疎なればこその情けや山の宿
夏山の責めのひとつに水甕座
涼風や巫女煌めかす朱の袴
里山も彼方の山も夏盛ん
鬱の字の二十九画青山河
山頭火風と出交す夏登山
眠る子も谺も育つ夏の山
思い出
人生九十年の節目、いま損得抜きの思い出に日本ソフトボール協会公認審判員の
十八年間がある。審判初級の第三種から第二種そして第一種資格の取得まで七年
ほどかかったが、認定は実力は元より経歴や協会への貢献が最も大切と、仕事や事
情が許す限り真面目に出場したものだ。お陰で国体・インターハイ・北日本女子実
業団大会等大きな審判経験を重ね得た事は身に余る光栄とさえ思っている。
中でも、生まれの柴田町と北上市とは友好親善都市の間柄、また強豪チーム「北
上クラブ」との交流もあって、いつの年度だったか岩手大会への友情審判支援は、
取分け大会前後のイベントの特異さ、面白さと相まって忘れられない記憶として未
だに残っている。
良く審判は孤独と言われるが、多くアマチュアの試合だけに、選手特に生徒たち
の真剣なプレーの裁定には、終止にわたり、競技者にも優る緊張感をもってジャッ
ジに当ったことを、今もって忘れることは出来ない。 (勇喜)
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