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2022/10 №449 特別作品
流れ星 丸 山 千代子
産声は呼吸の始め木の芽吹く
ぶらんこの二つは永久にすれ違ふ
空元気も元気のうちや柳絮とぶ
沈黙は同意にあらず蟇
満潮の運ぶ匂ひや夏は来ぬ
点眼の一滴夏の雲ゆらす
一杯の水を味はふ広島忌
冷蔵庫あけて未来をのぞき込む
流れ星宇宙のこぼす涙かな
鎮魂の海の底にも秋彼岸
趣味あれこれ
四十にして惑はずの言葉もあり誕生日に家族の了解のもと始めた書道が八十歳過ぎ
迄続けられるなんて夢にも思はなかった。週一度の宅習いが楽しく毎月の競書の成績に
一喜一憂の日々を過ごした。四十五年間河北書道展東京展へと次々出品した。
その後クラブ活動が必修となり、音色が好きなクラシックギターに挑戦。その一端を生
徒に伝授した。文化祭には三十人合奏を楽しんだ。同窓会でその頃の生徒に会うと涙を
流して懐かしんでいた。転勤先の学校でも文化祭には皆に喜んでもらった。レッスンもロ
マン派へと進み家庭、仕事と大変になって来た。青少年文化センターでの百人の大合奏
等体験した。突然背柱間狭窄症と診断され、続けてきたギターも遠のき始めた。テレビで
興味をもった俳句は、かれこれ十年を過ぎた。到達点は限りなく上で皆の作品に刺激され
つつ学んでいる。ムツオ先生、皆さんのご指導を受け楽しい学習に感謝している。今は比
較的軽いウクレレで町内会の敬老の日には五十人程のアトラクションとして唱歌、童謡、
演歌の伴奏をしている。私も卒寿となり思う様に体が動かない日々だが蛍のあかりのよう
に心の隅で灯っている。 (千代子)
微熱と遺書 岡 本 行 人
夜明けなど待ちわびるかと蟬の声
忘却の彼方に揺れる微熱かな
浴衣着る喜び抱え失踪す
桃ひとつ踏んでも続く人生よ
山滴る孤独は何と出鱈目か
右手には歯ブラシ左手に戦争
七夕の願いがすべて遺書ならば
火葬場の煙のような夏終わる
向日葵を脇に挟みし裸体像
バッハ聴きプラスチックの欠片食う
例の銃撃事件があったとき「ご冥福をお祈りします」という言葉が溢れる光景を眺めていた
ら、やはりこの世界に自分の居場所はないと強く感じ、無性に死にたくなった。
ニュージーランドにいたとき、滞在先の家族の次男が二階の窓から銃でウサギを撃った。ヘ
ラヘラしながらナイフで皮を剝いで、その肉を庭に吊るした。気味が悪かった。肉は飼い犬の
胃袋の中に消えた。
もし命に平等な側面があるとするならば、一つの肉として必ず終わりが来るという、一点の
みなのかもしれない。独裁者も凡人もウサギも、皮を剝いだらただの肉にすぎない。
肉の死を哀しみ、自分の人生に関係のない別の肉を食う。それは滑稽なことなのか。それと
も当たり前のことなのか。
国葬が行われたとして、善良な市民が手を合わせる中、私はあの日のウサギの肉を思い出
すだろう。野生を失った肉達が自然界で生存し続けられるのか。誰も答えられない。
(行人)
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