小 熊 座 2022/11   №450  特別作品
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     2022/11    №450   特別作品



        かげろふ         小島 ノブヨシ


    八月十五日かき氷機まはす音

    幽霊を見たさに螢狩りをせり

    立志伝錻力のバケツ提げ来たり

    美少年めくや水辺の糸とんぼ

    水神の祠に切れ長の目の少女

    雨乞のかむなぎ蚯蚓のたうちて

    蛇衣を脱ぐにうつつを抜かしをり

    なめくぢり真珠のやうな子を産めり

    ぢぢぢぢと縋りしあぶら蟬の顔

    かげろふの儚き夢を釣りの餌に

    梅雨なまづ孫のゆくすゑ案じてか

    なまづ釣るかはづ跳び込む音させて

    鯰ひげ文明開化の世ならばこそ

    夜八時どぜううたた寝してござる

    うな丼に梅干ひとつ添へにけり

    川蜷や瘡蓋剝がしたくなりぬ

    冷や飯を食ひをる蟇の痘痕づら

    声変りせし十五の歳の百合の花

    煩悩のひとつとなりし百合花粉

    おんぶばつたしがらみといふ絆




        夏風邪         関 口 渓 人


    電球の点きしモーテル月見草

    鬼百合や羽虫一匹雨宿り

    水盆の波紋のひとつ揚羽蝶

    波際の千切れた海月由比ヶ浜

    海亀の歩む波間の砂の城

    バス停のベンチに干され水泳帽

    テレワーク時計と金魚鉢並べ

    売り切れの推理小説ラムネ玉

    風死すやまとめて剝がすカレンダー

    夏風邪や不在通知と体温計

    夏風邪やアクエリアス三本目

    坂転げ来る牛追いのパナマ帽

    蚊遣火や百物語の第一話

    カリヨンの響き途絶えぬ秋隣

    溶け残る紅茶のミルク夏の果

    蜩や皿に山盛りアルデンテ

    原爆忌ひっくり返すLP盤

    瓶中に並ぶ星砂夜の秋

    秋風や腕に絡まる頭陀袋

    蜉蝣の翅や酒場のショーダンサー




        エレベーター         𠮷 沢 美 香



    一人なら秋風に寄りかかれさう

    秋風に浮力ありけり浮かびけり

    秋風の横顔しか知らぬ

    秋風や蟹と向き合つてゐる時間

    蟹踏めばきっと音する朝の月

    木のベンチ蜻蛉と海のありにけり

    赤蜻蛉過ぎて雲の香してきたる

    舞茸と共に霧雨聴いてゐる

    木が濡れてより秋雨と話しけり

    秋蝶となりてエレベーターを待つ

    秋の蚊の血を雨傘に拭ひけり

    無点だった句会を出れば猫じやらし

    黙読や狗尾草の濡れてゐる

    月光を腹壊すまで食ひにけり

    身震ひは体の芯より秋の星

    鏡より出て天の川まで歩く

    真つ白なスカート舞つてゐる秋思

    地底湖へ落ちれば光る紅葉かな

    秋灯保育園より消えにけり

    シャンプーの泡にまみれて冬来る





 
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