小 熊 座 2023/2   №453  特別作品
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     2023/2    №453   特別作品



        冬 椿        土 見 敬志郎


    故郷は遥かなりけり耳袋

    山の陽を重ね合ひたる朴落葉

    海の陽にみがかれ裸木となれり

    谷へ降る冬木の影を纏へゐる

    水槽の日差しに浮ける冬金魚

    冬波の海の日暮を呼び走る

    寒風沢に燃え尽きるまで冬落暉

    うつた姫待つ寒風沢の方位石

    冬霧の底に灯せる寒風沢島

    立冬の陽をむさぼりて車椅子

    綿虫にまとわり付かれ車椅子

    隙間風父の声する枕上

    奈落より声上り来る冬椿

    冬の水飲むたび山が傾けり

    数え日の太陽胸に岬道

    冬深し靴音ひびく石畳

    立冬の音を放てる蛇口かな

    冬虹の根の太かりき船溜

    風呂敷を結び直して冬麗

    冬暁の静かな力牛の息



      回想・法臘五十年      𠮷 野 秀 彦


    「眉あげて少年」と憲吉吾は六十三

    茶髪でも長髪でも寺の子星涼し

    寮に入っても坊主にしても熱帯夜

    夏安吾や沈黙は菩薩も同じ

    星あかりロック聴く身に小さな灯

    羯諦羯諦経の終われぬ冬衣

    芋あらし村の和尚の祖父が逝く

    髪下ろす覚悟あらたにクリスマス

    遍路転がしの山二つめや春の空

    春霖や網代笠に海の匂い

    隧道の春風笠ごと身を浮かせ

    武道館を埋める僧侶や春の夢

    三月一日アリーナに書く梵字

    千年の僧の声明草青む

    春雨の日本武道館万の客

    顎下硬直の父よ明日は一茶の忌

    落慶やムツオの席の風薫る

    「得度から幾年」と道夫あれは初夏

    父に似て祖父似で嬉し冬の月

    法臘五十年いまは裸木大銀杏



      晩秋そして冬       布 田 三保子


    SLの煙の向かう山は秋

    紅葉かつ散る灯籠の傾ぎをり

    少女らの後れ毛が好き小鳥来る

    昨日の私明日の私鰯雲

    ハローウィン幾つもの闇口開けて

    流れ星箒があれば我も飛ぶ

    学舎の壁の落書き蔦紅葉

    綾取りの梯子は月に掛けておく

    対岸の狐の鼓動我が動悸

    埋火は和菓子の名なり下京区

    七五三糺の森の木漏れ日に

    夢想国師の形見のやうに冬紅葉

    八方を睨み蟠龍冬に入る

    鳴龍の愛らしき声小六月

    北山杉寒気にどれも太りゆく

    冬の月引き寄せ明恵座すなり

    走り根の守るお山よ寒椿

    上りくる人を励まし石蕗の花

    水子地蔵慈しみつつ散る紅葉

    雪催黒門閉ざす冷泉家





 
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