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2023/4 №455 特別作品
鳥 風 杉 美 春
鳥影のよぎる速さや春兆す
海豹の九の字の反り身春を待つ
立春大吉ライオンの尿迸る
立春大吉鬼ごつこの輪に鬼の子も
薄氷に透ける緋鯉の鱗かな
春節の大根餅に透く光
春愁や卵サンドの耳乾らび
吉野紙に包む干菓子や春時雨
アラブ服の裾の汚れや春嵐
鳥風やベンチに残る求人誌
花冷えの閂重き孔子廟
パレットの絵具のやうな種袋
オレンジのパーカー日曜日の耕人
交はらぬ二重螺旋や春寒し
ふらここや真昼の月の高さまで
廃線の貨物鉄道菜種梅雨
厨房の裏の菜園鳥交る
迂回路の先の迂回路土匂ふ
国芳の画帳抜け出すうかれ猫
日時計の針の歪みや霾れり
聖 夜 大久保 和 子
あったはずの梯子外され風花す
疾うの昔夫は聖夜の星になる
ゆくりなく聖夜はとむらふ日となりぬ
子はやがて父になりサンタになつた
こゑが聞きたいあなたの声が冬銀河
ふつきるための聖菓ひときれ買ひにけり
若すぎる夫の遺影にある淑気
ひとりに慣れしことの淋しき三日かな
髪かきあげるあなたの癖や春の雪
この猫とけふも阿吽の春の暮
子どもの頃弟と二人祖父母に育てられた。明治生まれの二人はクリスマスなど
知らぬ世界。物心ついた頃私は、弟と二人分の靴下を枕元に置きいつの間にか眠
ってしまった。サンタさんが置き忘れてしまったのか、目が覚めると靴下はそのま
まにあり、次の年もやはり忘れられて、いつしか諦めた。
結婚して子供が生まれ、サンタはやって来た。プレゼントは見つからないところ
に隠し驚かすのが楽しかった。ところがある年のクリスマスの日に夫は急死。サン
タは消えた。クリスマスは弔う日になった。その後毎年聖夜が来るたびに暗く重た
い日になった。おもちゃもケーキも買う気にはなれず、出来るだけ静かにやり過ご
した。
その子ども達はそれぞれに家庭を持ち父になり、何事も無かったようにサンタに
なった。
夫の三十三回忌が過ぎた頃、ようやく苺のショートケーキを自分のために買っ
た。
こんな遠い昔話を、書くのに事欠いて持ち出してしまった。 (和子)
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