小 熊 座 2023/5   №456  特別作品
TOPへ戻る  INDEXへ戻る








     2023/5    №456   特別作品



      初 蝶        中 井 洋 子


    初蝶と記す予定の無き土曜

    初蝶の骨のひとつが点滅す

    覚えある辛夷を喜寿の弟と

    指の傷ひと晩おけば紋白来

    毬持つ子現れ消えし春のかど

    抽斗は春の眠りの真最中

    傍らの草の名酢漿と知りぬ

    アイロンのカキと冷めゆく春の暮

    柳青める東京の路地すぐ抜ける

    人なかを斜め斜めに桜時

    切株の太り心地やおぼろ月

    陽炎に盗られし単3乾電池

    集まつて息するもの等花の山

    青春も老年も密飛花落花

    人物の絵の輪郭や春の虹

    亡き人の齢を起せり花山茱萸

    じつとして視線を這はす青蜥蜴

    日月は何より確か榛の花

    春星のまばらが恐し両毛線

    天上の桜を見んと杏子逝く



      山酔ひ        我 妻 民 雄


    梅の木の幹がらんどう梅の花

    かたくりは身動ぐかたちして咲ける

    目も鼻もぐしよぐしよされど春やはる

    痛痒き帯状疱疹木の芽どき

    ヒマラヤの山酔ひはるかなる弥生 三十有余年前

    大岳突兀御岳尖んがり山笑ふ

    青き踏む序でに土竜塚を踏む

    みどり濃き腸こそよけれ焼栄螺

    麗日や麗人と乗るモノレール 遠山陽子女史

    狸出づ多摩蘭坂に春の月

    愛の字の中にも心ホーホケキョ

    ゴドー待つ竜眼枝垂梅のもと

    寅さんの川の面垂るる柳の芽

    菜の花忌空ととけあふ沖があり

    止めませうすでにさだ過ぐ原発は

    見はるかすどの春灯も包む闇

    鳥雲に入る大陸から帰省子

    久方の雨に葉裏の花樒

    白骨の出で湯の桜隠しかな

    野馬(かげろふ)もいつしよ赤・青・黄帽来ぬ



      梅の花        中 鉢 陽 子


    しゃぼん玉コロナはどこへ行ったのか

    二杯目の出雲の朝の蜆汁

    春衣この一枚は母のもの

    駅を出る淡墨色の春ショール

    栗駒山の種まき駒が生まれます

    黄水仙昼の明かりを溜めている

    小流れの春の夕焼に染まり出す

    一番も二番も村の春の星

    青田風列車で食べる塩むすび

    青すぎる渋民の空鳥帰る

    しだれ梅さわってみてもいいですか

    春昼の欠伸がうつるバスの中

    牛の背に梅の花びら農学校

    野に遊ぶふるさとの甘き風の中

    風車息づき足して廻す父

    草青む富士のふもとへ転勤す

    校門の生徒急がす桜東風

    白木蓮空家のままのわが生家

    黄水仙旅の途中の食堂に

    終着の駅舎を出れば花の雨





 
パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
  copyright(C) kogumaza All rights reserved