小 熊 座 2023/7   №458  特別作品
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     2023/7    №458   特別作品



      彩 雪      郡 山 やゑ子


    雲海に翼凜しく進みけり

    睡蓮や地獄めぐりの煙の中

    炎昼の海地獄とや赤黒し

    大木の苔を纏ひて梅雨を待つ

    発掘のごと草むしる老男女

    老鶯や子等駆け回る社跡

    薫風に乗り少年少女合唱団

    ドクダミの鉢植のあり売られをり

    おもしろし女九人生ビール

    夏の陽の海を鏡に装ひぬ

    彩雲に神のご加護の染み渡る

    藤棚の奥に自転車ヘルメット

    ショーウインドーに映れる吾も薄暑かな

    芍薬の口堅くせる莟かな

    きのふより闇が濃くなる青葉かな

    ナイターの勝利の女神眠りゐる

    梅雨炬燵昼の瞼の重かりし

    病葉とて明日に向ひて陽を浴びぬ

    乙女等と歩幅合はせて汗ばみぬ

    瞑想の松乱鴬の恋ごころ



      山遡れ
~JR只見線讃歌    髙 市   宏


    くちばしの痕のこりたる熟し柿

    熊避けの空砲ひびく天の川

    雪囲ひ終へし家々灯ともせる

    単線のふみきり覆ふ霜の花

    木の椅子のストーブのある無人駅

    プラットホームに粉雪掃きし竹箒

    トンネルを抜けて吹雪の只中へ

    トンネルは山縫うてゆく遠雪崩

    芽吹きたる橅根こそぎの雪崩跡

    ぐをんぐをんと山の圧し出す雪解川

    新緑の奥に雪嶺列車行く

    芽吹きたる山遡れディーゼル車

    撮り鉄の連写の音や山桜

    廃校の屋根よりしづる春氷柱

    廃村となりし集落桐の花

    薇を揉み裏返す荒むしろ

    襖開ければ夏霧の只見川

    爪剝いて宙掻く猫や揚羽蝶

    屋根に咲く百合ごと旧家受け継がれ

    親と子の一徹の目と鬼やんま



      うふふ      神 野 礼モン



    髪を切る鐘の奥なる花ミモザ

    空缶より蟻の数匹無音にて

    花疲れ私八方美人かも

    姉の顔観音様にみえ長閑

    祈る手に鴬の声入り来し

    乳銀杏触れて艶めく若葉風

    野良猫の寺に居つきて青葉木菟

    夏座敷ジーンズの穴気にしない

    短夜や美濃焼皿にヨーグルト

    風知草ふやすつもりはないけれど

    木洩日のうふふと二人静かな

    バス停に傘が一本若葉風

    蓼科はまずうぐいすの谷渡り

    文豪の蓼科の湯よ旅五月

    信玄のここは隠し湯花辛夷

    勇名蠢く騎馬隊の湯や五月富士

    五月富士手のひらにほらのせてみる

    胸に脚たたみて山羊の昼寝かな

    羽ばたいて我も大瑠璃なら素敵

    女神湖の女神か揚羽蝶と化す





 
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