小 熊 座 2023/9   №460  特別作品
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     2023/9    №460   特別作品



      新じゃが       須 﨑 敏 之


    夕藤はお下げを結って天翔ける

    深淵を覗けば我と散る葛と

    木下闇有袋類のポストかな

    大楠の伐採始終街薄暑

    皆既月蝕かまきりの子を降り散らす

    命弾けてかまきりの子が霧散せり

    潮揚り毘沙門天の村祭

    じゃがいもの花が絶巓奥多摩路

    さもあらばあれ新じゃがの玉茹だる

    星屑か芒種の畦の小花たち

    五万分一山地図の日焼かな

    殊灼けし玉石一個始祖以前

    西へ旅泰山木は花掲ぐ

    冷蔵庫を内臓のごと被瀝せり

    盆が来る道路鏡にはにわたずみ

    花火屑舟運さんざめきて過ぐ

    茨城は平ら入り組む油照

    巣つばめの落ちたる屍夢に飛べ

    いのち消ゆ幼なつばめのおもみかな

    夏つばめわが胸ぐらを荒砥掛け



      夏の花       平 山 北 舟


    睡蓮や朝日しみ入る箒の目

    樹皮は溶け花は燃えゐる百日紅

    茉莉花の匂ふ垣根やピアノの音

    たとふれば蛇笏の立句朴の花

    行けどひまわり行けどひまわり戦車隊

    フラメンコダンサーの裾ダリア濃し

    紫陽花へ水遣る妻に静脈瘤

    手招きする見知らぬ老婆木下闇

    緑蔭の蔭ひきずりて男出づ

    東京物語浴衣の老夫婦

    サングラスはずして道を尋ねけり

    テレビより母校の校歌冷素麺

    ほととぎす雨音ふつと途切れたり

    渡り来る老鴬の声山上湖

    奥山の木霊従へ夏鴬

    転調す出会い頭の揚羽蝶

    夏雲や父の自慢の力瘤

    火蛾乱舞最高潮の野外劇

    手刀で割りこむ男神田祭

    見えさうで見えぬ心や水海月



      遠花火       森 田 倫 子


    人類よ蝶はひらりと前に飛ぶ

    千年の後の花なる蓮の種

    蟬穴に足跡遺し兄逝きぬ

    鯉のぼり兄のベルトの穴細し

    流灯や兄は「創造の柱」へと

    晩夏光一度きりなる事ばかり

    二度と無き今を流れる天の川

    幼日のチチクマで見た遠花火

    蝦蟇蛙もとをただせば武士と言う

    秋蛍半鐘鳴らし水に落つ

    柔らかき灰に覆われ妣の国

    百年を動かぬつもりか白き蛾よ

    朝曇り鉛筆の芯匂いたる

    ヤブガラシ伸び放題の快楽かな

    暮れ方の勝手口より胡瓜の香

    レコードのノイズ懐かし青田風

    青嵐つの字で飛ぶは青大将

    老鶯や那智の御滝の注連飾り

    大声で鳴くはカラスか親なき児

    万緑に佇む塔の思慮深し



      星月夜       小 野   豊


    万緑や癌細胞も分裂す

    QRコードの裏の夏の闇

    蛍舞ふ人間に無き力にて

    忸怩たる思ひ知らねど蛇眠る

    改憲の次は徴兵蟻の列

    また土に帰る蚯蚓の乾びをり

    退くも王者の度量甲虫

    振りかざす正義はあらずいぼむしり

    ジャスミンを嗅ぎて時間の旅行者に

    獏食はぬ戦争の夢明易し

    裏側は修羅の顔なり夏の月

    夕焼けの彼方に戦地風見鶏

    熱帯夜ジャズの酒場の反戦歌

    熱帯夜目覚めるたびに鰓呼吸

    永遠に消えぬ影あり原爆忌

    再起動利かぬパソコン原爆忌

    犬猫にも聞耳の立つ原爆忌

    艦觴は見上ぐ瞳に天の川

    相聞をLINE で交はす星月夜

    人類の敵は人類星月夜





 
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