小 熊 座 2024/3   №466  特別作品
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     2024/3    №466   特別作品



      大冬木      永 野 シ ン


    一貫目程の朝刊お元日

    パソコンの少年三が日の隅

    千両の一本を挿し独りなり

    雲を呼び雲を遊ばせ大冬木

    生れたての雲を乗せたる大冬木

    子に顔を剃ってもらいぬ寒の入

    初雪に迎えられたる高蔵寺

    参道の石はでこぼこ冬蝗

    誰がために手を振っている枯芒

    冬青空眩し少年変声期

    縁側はわが桟敷なり春の月

    青春は遠きものなり草石蚕食む

    着ぶくれの影を連れ来て独りなり

    霜晴を登り詰めたる筆神社

    木から木へ伝う風音いぬふぐり

    どこまでも冬青空水少な

    いつのまに校舎を染めて寒茜

    手鏡の中より蓮の折れる音

    笹鳴の声に踏み出す一歩かな

    眠ければ眠れる自由水温む



      炉 話      蘇 武 啓 子


    呉須滲む陶の欠片の淑気かな

    三月の橋渡り来る影法師

    斑雪駒も雀もあそばせて

    連凧のひとつが兄の顔となる

    人に厭き深山桜となりにけり

    回転灯の脇通り抜け猫の夫

    川風や干されし鮭の面構え

    榠樝の実茅葺き屋根の茅朽ちて

    われ父似妹母似門火焚く

    過去未来いずこより来し初雪か

    父留守の夕は淋し寒鱈汁

    謎解きは謎のままなり鮟鱇鍋

    裏畑の畝平なり水仙花

    炉話の父は童になっており

    雪玉の数多の記憶手のひらに

    堂々と冬の桜となりにけり

    みちのくの美豆の小島の小米雪

    冬はじめカラカラ笑う鉋屑

    荒脛巾光こぼして寒雀

    今は昔馬橇は花嫁衣裳積み



      花芙蓉      中 村   春


    薫風や缶ぽっくりの少女来る

    春日和キメラ鶏孵りけり

    三陸や潮の香の添ふ孕鹿

    コンパス失ふ十薬の花の海

    実桜や三面鏡の閉じしまま

    梅雨寒や「立子へ抄」をまた開く

    滴りはいのちのいろに被弾の地

    南風にのる翼なけれど少年は

    隠沼の空深まりぬ秋の蝶

    啄木鳥にたたかれている七十歳

    雄蘂の微かなるゆれ夕かなかな

    つひに見ぬ母の化粧や花芙蓉

    旧盆や畳表の香のこもり

    渦を巻く帰燕の群れや夕茜

    粗彫りのマリア観音笹子鳴く

    薄氷や飛ぶものの影またひとつ

    水琴窟の音透きとほる寒日和

    太陽と小犬をつれて寒見舞

    身は習わしやカリヨンの鐘の凍て

    数独や枯葉の走る音かすか





 
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