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2024/4 №467 特別作品
遠 慮 津 髙 里永子
短日の路面電車や滑りゆく
孕みたる犬に出遇ひぬ冬木立
窮月の音振りかざすギタリスト
薄味のおでんしづかに酔はす店
着膨れの車内空缶転がりぬ
小言聞く気もなし長きコート着て
毛糸帽肩の力が抜けてくる
軽々とバッハ速弾き雪もよひ
藁屋根にしづく遠慮の薬喰ひ
掬へるか鮟鱇鍋の鼻濁音
夜を招く松の枝か咳もて躱す
動線に無駄が多くて隙間風
大年や墓地の近くの心字池
どら焼を食べどて焼を食ふ晦日
床の間を白く灯して鏡餅
新暦永遠に画鋲の穴ひとつ
蛸舟の殻や初日に透くる襞
表情のかたさ母似や初鏡
風呂敷に包むあしたの春着かな
風音の高き福笹掲げゆく
雷 電 遅 沢 いづみ
曲折を経ての開業夏は過ぎ
見所で停車の電車初日の出
着ぶくれて次降りるよの声がする
少しだけ降る雪の情緒に電車
有名な新里葱を売る広場
一月の隣町工業団地
駅からの道のり長く竹の秋
春風に小豆洗ひの葉擦れかな
梅林一夜明けるとユートピア
春耕のトラクター土手は雑談
農業のヤマの傾斜を歩く雉
ひなたぼこ孫がエクレア持つてくる
テクノ街さくら並木に樫の森
ハイカラと言ふも古めかしくも春
ピノキオのまことに出会ふいぬふぐり
家族連れの狭間で春の雲を追ふ
春休み約束まづはベルモール
水仙が咲いて水無川の橋
宇都宮ライトラインはライディーン
マダ坂をのぼれば月見草ホテル
能登の灯 斉 藤 雅 子
悴める素手のかたちぞ能登半島
冬の海能登半島へ牙を剝く
寒波次々張り手のように能登へ
能登よりの嗚咽のように虎落笛
悉く道路寸断しずり雪
能登の灯のぽつーんぽつーんと春浅し
野仏に寄り添うように冬すみれ
臘梅や身の透くほどに真っ正直
冬草の根っこ頑固は母譲り
待ち針を数えて仕舞う雪催
受験子の部屋より墨の匂いかな
境内に寒菊鶏の放し飼い
路地奥を照らし出したいる花八手
焼き芋をふたつに割って塾帰り
空っ風に分け入る犬に引かれおり
蘆原の蛇行の径へ迷い込む
山の端に下弦の月や菜の花忌
晩節の力を使い南瓜へ刃
閨へ持つコップ一杯の寒の水
捨てられぬ物に囲まれ日脚伸ぶ
冬干潟 丸 山 みづほ
土手に佇つや冬の干潟と太平洋
仙台平野白鳥の田と鴉の田
寒風の中や荒浜小学校
風花や祠新なる地蔵尊
小さき鳥居小さきお社冬日差
風花の小さき神社村消えて
冬ざるる今は空き地の一本松
ポケットに両手突つ込み枯葦原
冬干潟ヘリコプターのホバリング
澱みゐる水辺や鴨の羽一枚
鴨の陣動かぬままや沖に船
追ふ鳶と追はるる鳶と冬青空
山頂へ六歩マフラー巻き直す
待春の水面掠める青鷺か
冬干潟吾も一羽の鳥となり
さざ波に指弾かるる冬干潟
熨さるるごと寄する冬波干潟かな
寄せ波や付かず離れずつがひ鴨
遠くに鷺冬帽のつばそつと上ぐ
突堤に釣り人一人春隣
煙 突 岡 本 行 人
虐殺を無視する御前子を諭す
気候危機すべての季語を喰らいけり
煙突にへばりつきたる孤独かな
アスパラガス都会の死者はどこへゆく
愛を説き卑怯侍らせ水温む
牛タンのスジにも神は宿るのか
潮干狩り或いは日々のかすり傷
口封じされても朧月夜かな
ターコイズブルーの渋谷春を待つ
終電の車内で髭を剃る神父
季語の終焉
ターコイズブルーの渋谷がどんなものなのかわからないし、孤独が煙突
にへばりつくのかもわからない。神父はなぜ終電の車内で髭を剃っている
のか。この句は元々「終電の車内で髪を切るライオン」だった。なぜライオン
が電車にいるのかも、どうしてライオンが神父になったのかも、やはりわか
らない。潮干狩りの匂いはかすり傷に似ている気がするが、潮干狩りに行っ
たことはない。
とにかくわからないことだらけだが、これだけ自然を殺してしまった以上、も
う呑気に春夏秋冬を愛でながら生活を続けていくのは無理だろうし、猫と暮ら
しながら、システムの中で虐待され殺される動物の肉を食べ続けることに、
罪の意識がある。
わからないばかり言っているが、はっきり大声で言いたいのは、イスラエル
のパレスチナ市民への無差別大量虐殺に反対する。ガス室のないホロコー
ストに反対する。無知で愚かで卑怯者だが言う。今すぐ虐殺をやめろ。
(行人)
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