小 熊 座 2024/5   №468  特別作品
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     2024/5    №468   特別作品




      葱坊主      山 田 桃 晃


    身も魂もとろける様な二月の陽

    耳の日の車座に火を育てをり

    耳の日のこけし一対寄合へる

    三月や伊保石の空気嫌よし

    根性で咲く伊保石の犬ふぐり

    如月の雑草の唄うらやまし

    伊保石の木の芽するどく天をさす

    穴を出し地虫のすべて声もたず

    どん底で笑ふ年寄り蛇穴を

    啓蟄の陽を珠となし一日過ぐ

    鬼房と地虫出づ風眩しめり

    忘れ得ぬ声よ三月十一日

    冴返る灯のつらなれる屋根部落

    彼岸会の睦が近道老婆来る

    変りつつある潮の色彼岸荒れ

    息荒げ牛が水飲む彼岸花

    雪代や誰も行かざる径のあり

    雪嶺をうしろに東風の鴉山

    起き抜けの眼に晩霜の陽が痛し

    年寄りの詩に角あり葱坊主



      割 愛      中 井 洋 子


    冴返る裸婦像は無を抱へをり

    紅梅の声洩るるまで佇みぬ

    風に日に人に親しみひこばゆる

    割愛といふ語ある国麦青し

    白蝶にきりぎしなせる雲の影

    滑りよき舌は一枚梅月夜

    戦塵も朧も永久にこの世なる

    人に夜来るなかんづく雛にも

    潜水艦浮上のごとく彼岸鯉

    しやぼん玉大きくされて孤独なり

    北への便りいつか分厚し山笑ふ

    たんぽぽの黄いろ認知症後の記憶

    水筒の白湯の飲みごろ初雲雀

    引出しにつかへてゐしが囀りぬ

    米を研ぐ男のほかは夜の朧

    川の面を持ち上げる石雛祭り

    和毛まだ体温にあり目白の死

    朝寝せし背中に鏡付きつきり

    春やレジぶくろ突き出て収まる荷

    春闇の密なここよりわが家路



    ひとりぼっちじゃない    𠮷 野 秀 彦


    新春の激震明日があるから今日は泣く

    背中雄祖が揃いて初茜

    能登知らず火事跡は朝市という

    QRコードの中も鰤越し

    魚氷に上る人を入れない能登の陸

    罅割れの畑もあらわにはだれ雪

    避難所に小さく生まる春の灯よ

    手渡しの救援物資は春の水

    覆うもの少しずつ除け蕗の薹

    人の手の温もりがあり春の水

    地割れ倒木映像にあり二月尽

    避難所を探せぬネット春北風

    能登の地図なぞる指先冴返る

    走り根の神木があり春北風

    天窓の春満月や能登遠し

    塩つくる朗報ひとつ凍ゆるむ

    役立たずでも駆け付けたい能登に春

    七尾の海豚見る用意して春の雨

    それぞれの震災があり入り彼岸

    青き踏む地球はひとりぼっちじゃない





 
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