小 熊 座 2024/11   №474  特別作品
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     2024/11    №474   特別作品



      指 窗      小島 ノブヨシ


    羽団扇で天狗が撒きし杉花粉

    百鬼夜行てるてる坊主ぶら下げて

    なめくぢり百鬼夜行のなれのはて

    百物語尽きて軒端に下がり蜘蛛

    湯浴みする嫂守宮の出る時刻

    守宮出て湯浴のふぐり縮こまる

    守宮出て虫の居どころ探りをり

    後出しじやんけん狐の手袋で

    ジギタリス疑心暗鬼を生じけり

    狐の剃刀躊躇ひ傷の二つ三つ

    貂の剃刀王都は卑狗に統べられて

    狸の剃刀他人の顔になりすます

    狐の提灯一株姉の墓に植う

    死人花後ろにきつと誰か居る

    曼珠沙華倭建の野火奔る

    曼珠沙華ジャンヌ・ダルクの断末魔

    曼珠沙華鬼太郎とゐる歯抜け婆

    花魁草愛などなくてお茶らかほい

    曼珠沙華帯の角出し艶やかに

    再びは狂へぬ白の曼珠沙



      海女の呪文      森   青 萄



    馬肥ゆるキノエネ様のおはす邑

    草煙美し白し人煙黒し

    死齢きて観音様へ返す馬

    白露へ合点合点と軍馬征く

    しぐるるや遠野にて会ふオシラサマ

    鹿垣の果はあばら家デンデラ野

    花韮の南部曲り家馬おらず

    稲の穂とヌカのはみ出す原発塔

    倍暦や海女の定年八十五

    小魚の吹雪のなかにバスを待つ

    カジメ林抜けてまつすぐ鮑獲く

    海中に火花散らせる熱帯魚

    アリューシャンまで海山列のイリュージョン

    トラック島のこと訊く海軍さん

    バンケットルームより来る出世魚

    海女の呪文霊出せ霊出せ霊を出せ

    残照や艦の残骸二十五艘

    深海に刺さる沈没艦の魂魄

    息綱を一心に引きあぐ爺の海

    青岬飛族の一人として飛ばむ



      荊棘線の向う      幸 田   晋


    月光に翳すコニャック媚薬めく

    蹠冷まじ離宮へ続く甃

    荊棘線の向う裏窓厄日なり

    紋章に蔦のからまる古館

    抉じあける地下の錠前うそ寒き

    目の慣れし闇に荒縄とぐろ巻き

    粗樫の梁太々と繩垂らし

    剝製の鸚鵡の眼どんみりと

    慇懃にサド侯爵の黒葡萄

    嚙み殺す含み笑ひや抜かりなし

    手始めのその聲低くくぐもれり

    目が震へだして嗚咽や娼婦怖ず

    びゅんと鞭手負いの豹のやうにかな

    ばらけ散る床へ瑪瑙の首飾り

    祭壇の塵を震はす鞭連打

    緊縛の肉叢はしる稲つるび

    慟哭の眼うつろや夜長し

    身の内のサンチョ・パンサぞサド猛る

    嗚咽もれなかに一際鋭く曳きぬ

    眼裏に白き乳房の揺れ止まず





 
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