小 熊 座 2024/12   №475  特別作品
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     2024/12    №475   特別作品



      鯊の眼      日 下 節 子


    百日紅樹下に父母その祖も

    老境はありてなきもの天の川

    せせらぎは神のつぶやき鳥渡る

    眉引いてけふの始まる花木槿

    閼伽桶の水溢れ出す秋彼岸

    川の上を風の流れや曼珠沙華

    村老いて稲架組む音も消えにけり

    鯊の眼の光りて谷の雲迅し

    いさかひに発端ありて水澄めり

    星飛べり洗ひざらしを身に纏ひ

    銀河濃し戦止まざる世に生きて

    紅葉かつ散るみづうみは真つ平ら

    手花火やかがめば影も屈むなり

    逢ひたくも逢へぬ人ありつくつくし

    こほろぎのはたと止みたる闇のいろ

    分校のありし跡なり草の絮

    自転車の後輪軋む寒露かな

    今生の一隅照らす草の花

    花野行く思ひ出のあるところまで

    雁渡しサンファン・バウティスタ号



      古き地図      棟 方 礼 子


    適当な準備体操天高し

    秋草のところどころに風起こる

    穴がいくつも案山子の足跡とも思ふ

    刈稲を花束のごと抱きけり

    存分に吹きこぼれみよ今年米

    叫びつつ落ちてゆくなり石榴の実

    秋の暮書院の小舟漕ぎ出さむ

    打ち明けるきつかけ探り秋灯下

    胡桃割れば中に柱の立つてをり

    祝はれる人が幹事や豊の秋

    赤い羽根目礼をして別れけり

    捨つるため自転車を引く星月夜

    栗剝きをまかされてをり小鳥来る

    菊人形人前で姫着替へけり

    城下町の古地図に向ふのも秋思

    白木槿寺の鏡に身繕ふ

    新蕎麦や一枚板の栃の卓

    一日に寺も神社も水澄めり

    秋うららぶるんぶるんと玉蒟蒻

    やまびこを恋ふ少年やいわし雲



      母 型      村 上 花 牛


    月代や冷たき母の耳に触れ

    天の川わが青春の塗り残し

    夜を徹し烏瓜の花自爆せり

    身中に縮みゆくもの秋の虹

    鉄骨に脈拍ありて虫時雨

    秋の野や巡礼の鈴鳴らすは母

    喉仏の骨を拾ひし秋の昼

    秋燕や今朝一番の白湯甘し

    雁金や棺の蓋を覆ふとき

    エアプランツ秋の空気は美味しいか

    九天の母のたましひ金木犀

    前のめりに過ぎる人生鳥渡る

    秋天や長き尾を曳く筆の割れ

    吐く息に死の影匂ふ水の秋

    土偶片はいのちの母型水の秋

    月夜茸胞衣脱ぎ捨てし惑星よ

    新蕎麦やスイングジャズと板わさと

    少年の膝小僧撫づ赤まんま

    小石川こんにゃく閻魔の花芒

    ジーンズの安全ピンや秋の風





 
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