2022年 6月 鬼剣舞 高 野 ムツオ
まぼろしのすすきが揺れる聖塚
鬼剣舞扇合わせて祖霊呼ぶ
まだ動く気配なき森ハロウィン
手平鉦雪も浮かれて降り出せり
凍天まで南部煎餅割れし音
冬青空行なり扉すぐ閉まる
金剛杵手に手に雪解水踊る
岩崎の斑雪を踏めば我も鬼
2022年 5月 夜の炎 高 野 ムツオ
自らの水脈白鳥は振り向かず
白鳥の水脈人の世を祓いゆく
白鳥には何処も太古雪の暮
白鳥の水搔思え眠るとき
白鳥は極北の鳥夜の炎
白鳥の黒眼に如かず我が欣求
空飛ぶため白鳥蘆の根を囓る
白鳥引く首抜けるまで首伸ばし
夜空飛ぶ時は汽罐車白鳥引く
2022年 4月 穢土の雨 高 野 ムツオ
穢土の雨着きしばかりの白鳥に
枯蘆と白鳥一穢なき同士
街灯に曝され白鳥一家族
妻を呼ぶ白鳥の声黄泉の国
白鳥の心臓の音星を生む
白鳥の声ぺしゃんこの空缶へ
白鳥眠る日輪滅ぶ音の中
白鳥の氷れる声が打擲す
白鳥が飛べばハンガー揺れ出せり
永劫の疫病白鳥鳴き止まず
2022年 3月 さくら蝦 高 野 ムツオ
渋滞の尾燈なれども聖夜の燈
金華山鯨のごとく波間より
妙音が出そう湯冷の痩肋
畳より柱へ上る冬日差
ゴミ箱の海老の尻尾へ天の雪
爪切れば死後へ飛ぶなり寒燈
雄勝法印神楽海鳴り背にし
兜太忌の谷間朝日子あふれ出す
赤黄男忌の汐入川に雲の鰭
山の闇背負いてさくら蝦抓む
2022年 2月 朝日の音 高 野 ムツオ
死人花その鱗茎と冬を越す
時雨忌や詩にもウイルスあるべかり
冬林檎囓る朝日の音を立て
歳晩の潮や疼くまで匂う
いつのまに整列したり除夜の杉
ちんぽこと一緒に除夜の湯に浮かぶ
白河以北一山百文注連飾る
大川小遺構初日に軋み出す
初夢や頭蓋をあふれ無辺へと
九十を越えて妙齢年酒酌む
2022年 1月 猟師町 高 野 ムツオ
冬青空毛細血管巡らせて
海の底にても引き摺れ千歳飴
ワセリンを塗つたのは誰冬の星
かの世より冬木の桜腕延ばす
卑弥呼句会
年忘れ津波を見たる顔ばかり
津波の記憶ありて瞬く冬燈
年を守る漁師消えたる漁師町
白鳥一声歳神様を招来す
白鳥の血潮に応え夜の雪
眠らんとすれば白鳥またも呼ぶ
凍土に噴火しており牛の糞
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