小 熊 座 2021/1   №428  特別作品
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      2021/1    №428   特別作品



        半田銀山        永 野 シ ン


    半田山朝の時雨に打たれ来て

    山霧のみるみる迫り来る迅さ

    坑口の鉄扉の錆や昼の虫

    雨を来て落葉の光る水神崎

    風を踏み落葉を踏みて半田山

    冬わらび沼神さまの供華として

    水音は竜神の声枯尾花

    名も知れぬ茸がうすら笑いして

    木の実落つ音は映らず沼の面

    半田山の空に叢雲ななかまど

    風音は山の音なり濃竜胆

    琅玕の沼の静けさいぼむしり

    沼の面に向かいて座せば鬼蜻蜒

    山萩に触れて佇む半田沼

    半田山は大き水甕草の花

    秋惜しむ伊達の桑折の半田山

    坑口は真昼の闇や野紺菊

    忠魂碑がまずみの実の撓わなり

    木の家の床は寄せ木や小鳥来る

    半田山の釣瓶落しを惜しみけり



        晩秋また初冬        須 﨑 敏 之


    冬の蝶豹文を降りこぼしたる

    秋の山慟哭のごと石飛べり

    狼も兜太も居ない秩父夜祭

    草深き明暮ひたき来る気配

    自販機の灯が寒村を直視せり

    冬近し安楽椅子と安楽死

    白々と日輪燃ゆる蓮根掘

    綿蟲を光背として歩くなり

    台風の尾捌き銚子沖うねる

    目に見えて田園は荒る露しげし

    郷去りし後ろめさたが霧を恋う

    炎炎たるダリアは霜の匂いせり

    振袖の鶴廃屋に忘れられ

    菊の蜂火の粉のごとく爆ぜにけり

    ごろごろとして葬後の秋の家

    ひたき来て喪の窓辺打つ夜明かな

    粟千粒降らし風樹となり居たり

    紅葉綾なす八百万神の山

    濁世へと貝塚露出星月夜

    東京の残照の五時マスク群



        昭和の秋        瀨 古 篤 丸


    遊民の下駄音遠し神無月

    「ぬけられます」とある行止まり秋の暮

    秋寂ぶやむかし鉄漿溝ありて

    括らるる自由のありぬ晩菊に

    山紅葉闇に色見せしづもれり

    熟れ柿や跡も残らぬ偏奇館

    路地口の煙草屋無人冬隣

    きんつば屋一円まけてくれし秋

    丸善の洋書小脇に冬日匂ふ

    秋思とは蝙蝠傘を抱いてより

    鮭の皮銀の綺羅見す夜長かな

    網タイツ天の吐息の木枯に

    秋惜しむ紙芝居屋の江戸なまり

    銀杏散る霊南坂の泥濘に

    虫の闇坂の途中の大使館

    秋灯漏れる銀座に迷ひたし

    天鷲絨の襤褸の端や小鳥来る

    コスモスの茎の危うさ文化勲章

    迷宮を出たがる菊の括られて

    霧ならばサンドニも門浮かび来る



        奥州の旅        神 野 礼モン


    笊の柿朝市の婆口達者

    小鳥来るレストランまだ準備中

    野葡萄や熊が近くにいるらしい

    陰沼に押し寄せ水草紅葉かな

    冬の鵙父の万年筆ぬくし

    桃青忌水平線をてのひらに

    毒茸の赤さ濃くなり獣道

    この道に子安観音堂秋思

    観音堂の老木の下冬すみれ

    冬の蠅観音堂の濡れ縁に

    千年の杉と野鳥と落葉風

    黒石寺の鐘の音深し冬紅葉

    毘沙門天の夕日集めて石蕗の花

    寒禽の声や奥州観世音

    観音堂をひとまわりして落葉風

    広田湾より遊びましょうと雪蛍

    銀杏を袋に詰めて観世音

    奥州のどこ走っても金すすき

    星月夜消しゴム段々まるくなる

    抽出は空っぽがいい十二月



        土の記憶        髙 橋   薫


    日日薬の効き目が少し雁渡る

    この沼の真雁の飛来常しなえ

    一本杉まもなく雁の降りて来る

    一勢にはばたく雁の声ばかり

    はぐれ雁ひとりぼっちの解放感

    旋回し落ちる雁の山白し

    底ぬけの青空からの桐一葉

    戦場が原のすすきのたっぷりと

    花すすき輝くところに風走る

    草もみじ土の記憶のままにあり

    真葛原向うの水は甘いだろう

    渇望のまだ残りいる落葉かな

    日が消えて綿虫消えて悔ゆるなし

    星屑は湖面に映り真珠なす

    線路の果てまで冬の背高泡立草

    今日も又雁ばかり見て迂闊なり

    人知れず紅葉となりて揺るぎ無し

    電線の無い戦場が原に霜

    翅閉じて曝れるがまま冬の蝶

    初雪が幸いのでと触れてくる



        九相図        長谷川 克 史


    夏日差す病院に入る人の背に

    主留守の寝間まん中に大百足

    父の不在雲まばらなる秋彼岸

    秋暁は雨後の明るさ息の熄む

    香を継ぐ毎に冷えゆく骸かな

    秋空の半ばは雲や葬儀終ふ

    喪服脱ぎ木犀の香に気付く午後

    月中天雲無くて降る夜半の雨

    ふるさとの酒ある逮夜月の満つ

    初七日の虫の音細き夜となり

    秋霖や煩わしくもすべきこと

    父も見し花は紅葉となりにけり

    霜降や沈黙増ゆる四七日

    語ること少なくなりぬ十三夜

    露霜のはや還り初む空の青

    初雪や父と踏みたる峰に先づ

    スタッドレスタイヤを亡父の車にも

    弔慰絶え蜜柑の色の濃くなりぬ

    初冬の伯母叔母の顔満中陰

    納骨はまた後のこと小六月



          梟          須 藤   結


    鶏頭に濃き赤どくどく偏頭痛

    真っ白な野菊野良着に集められ

    低気圧過ぎるまで燃ゆ紅葉かな

    生きていた土より出されし甘藷かな

    鍵っ子の母待つ瞳草の絮

    立冬や学芸会の風の役

    米沢の影深くなる雪囲

    梟や今日も残業子に会いたし

    しぐるるやプリント届けは後二件

    残業の仲間と脱がれ年忘



      令和二年は私にとって本当に目まぐるしい一年であった。

      下の子が風邪をひけば、上の子もひいて、「もう。」と思いながらも子どもと一緒に居ることのあ

     りがたみを感じた。

      四年休ませていただいた仕事に復帰し、がむしゃらに仕事をした。やらなければいけないこと

     とそれをやれない自分とがいて葛藤しながら毎日があっという間に過ぎた。

      コロナウイルスの影響で岩手の実家に帰ることのできない寂しさを感じた。リモートは便利だけ

     ど質感がない。

      俳句を作ることは、日々に忙殺されている自分自身と向き合える貴重な時間になっている。私

     の核はどこにあるのか、何を感じて何を大切にしたかったのか、今年は俳句を通して、自分自身

     を考えることが多かった。

      本当はもっと俳句を作ったり、勉強したりしたい。けれど、今の自分にできる範囲で、私と俳句

     のゆるい関係を続けていきたい。

                                                            (結)






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