小 熊 座 2025/11   №486  特別作品
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特別作品

2025.vol.41 no.486

魚の裔

佐藤 茉

  • 真葛原水際までの一部始終
  • まだぬるき夕べ均して流燈会
  • 明滅の外燈白き火蛾は兄
  • 昼寝覚何もかも焼べてゐたらしく
  • 落蟬に集る細かき黒き蟻
  • 抗生剤身に遍しや祭笛
  • 秋蝶が飛ぶすれすれアスファルト
  • 秋雲の連らなる西は杳として
  • 鰯雲葉もの翅ものおろおろす
  • 月細し見えぬ戦の終ひかた
  • 秋の風子等の詩集に死と戦
  • テデイベアと黒き兎と月の客
  • 夫の灯を一つ残して更待月
  • 出棺に釘は打たずよ稲光
  • 離れれば風のかたちの芒原
  • 夏負けの敵虎刈す昼飯前
  • 車椅子が朝刊轢いて秋涼し
  • 月昇る無為の明日の始まりて
  • 次あれば良いと言ひ訳九月尽
  • 人らみな魚の裔にて月仰ぐ

長き夜

宗像 眞知子

  • 行合の空へかたむき秋燕
  • 葉騒にも耳を澄ますや今日の秋
  • あをあをと濡るる毬栗はせを句碑
  • 大花野雨を乞ひたる声のして
  • 夕べより重さ加はる水蜜桃
  • やはらかな闇を醸しぬ水蜜桃
  • ゴッホ展観てきたやうな稲穂波
  • 新米の二キロ袋と忌を修す
  • 知るほどに廃炉遠のくうそ寒し
  • 汚染水タンク解体穴惑ひ
  • 銀河濃し核燃料デブリ何処へ
  • コスモスや除染復興再生土
  • セシウムも地霊もひそむ真葛原
  • 粧へる山を隠してメガソーラ
  • 鱗雲ふと生臭き匂ひして
  • 落栗を轢けば思ひ出壊すやう
  • 半眼の阿弥陀如来にある秋思
  • 金木犀散らす雨なり南阿弥陀
  • 吟行す背ナの秋日を友として
  • 長き夜や黄泉へ繋がる電話欲し

インド林檎

森田 倫子

  • 朋呼ぶか秋の梢の華やぎて
  • 昭和の日仄かにインド林檎あり
  • 鮫の歯の並べば崩る秋の沖
  • 小春日や虫売り膝をかかえおり
  • 鏡文字書けば応える冬銀河
  • 父の背に積み重ねたる去年今年
  • 背嚢を未だ背負いぬ父の背な
  • 真夜中の浅蜊の潮の吐く音す
  • 故郷に親の影失せ赤とんぼ
  • 夢覚めて昭和を探す寂しさよ

戦後八十年

物心ついた時、家の前に立てば生駒山の連山が見え、美しい山だと見とれた。しかし山から眼を離し町全体を眺めれば焼夷弾で焼かれた町や軍需工場の残骸が残っていた。だが子供にとって焼け跡にはそれなりの魅力があり遊びには事欠かなかった。特に縞蛇が多く、蛇穴を探しては卵に触るのが面白かった。縞蛇の卵は柔らかく指で撫でるとペコペコとへっこんだ。ただ青大将の卵だけは触らなかった。ガキ大将から「青大将は大きい蛇だからそっとしておけ、蛇の仕返しは怖いぞ」と真剣に言われた。焼け跡は子供にとって魅力的な場所だった。爆撃をうけた工場の跡には雨水が溜まり、蝌蚪がうじゃうじゃと泳いでおりザリガニもワンサといた。まるで秘密のジャングルのようで好奇心を十分に満たしてくれた。私には分からないのだが、ボタンをクリックして遊ぶ今の子供は何が楽しいのか。今では蛇もガキ大将も消えて終った。

(倫子)

 

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