「繭つくる前の全身濡れてゐるか」
これは本年六月二十八日、「ことばの祭典」で受賞された小熊座同人大久保和子さんの作である。一読、中七下五に然り気なく妖しさを求めた表出に好感を受けた。また選者の先生方が何の様に講評されたかを拝聴したくも思った。そこで歳時記の例句の中に近似の句を探したが、掲句の奇抜さを並立し得る句を見付けることは出来なかった。
さて、蚕繭に触発され、且つて養蚕の仕事に関わった思い出を連ねたい。孵化した毛蚕は暫くは蠢きの後、桑葉に喰らい付き食欲旺盛で成長は早い。食餌の期間を「齢」、仮眠と脱皮の間を「眠」と云い五齢目頃に繭を作り始める。身を反らし頭を振り振り糸を吐く。その糸は一八〇〇m に及ぶと云う。繭を整え終えた蚕は蛹となり休眠に入る。翌春蛹は蚕蛾に変り産卵して世代を継ぐ。取り急ぎの懐古だったが以上があらましである。哀れ! 蚕蛾には餌を取る口は無く自ずと命の終りを告げる。
(勇喜)