小 熊 座 2025/12   №487  特別作品
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特別作品

2025.vol.41 no.487

夏落葉

横田 悦子

  • 守宮出づ腹ひくひくと吾を案じ
  • 大向日葵只今胆力発進中
  • 溝蕎麦の流れを隠すそよぎかな
  • 夏の浜手繋ぎ波の次次に
  • 盆過ぎの波の煌めく海たいら
  • 青葉の枝栗鼠は矢となり風となる
  • 薫風やリフトは人犬猫を乗せ
  • 縺れつつ時の欠片の黄の立羽
  • ハタパタと少女駈け下りふうっと蝶
  • 火口より夏嵐吾は神婆に
  • 山の神の婆に夏の鳶が憑く
  • 山の神の婆の其処此処猿茸
  • 山の神の婆に慌て斑鯉
  • 見送りかはぐれ蝗が欄干に
  • 青空と葛葛葛と高速路
  • 花木槿翅あるものを休ませて
  • 山笑う家を出るのに鍵忘れ
  • 夢見月八十路の裾のさわさわと
  • 深海のダイオウクラゲに撫でらるる
  • 足裏に祖の優しさ夏落葉

海の子

曽根 新五郎

  • 海の子は島の海女の子海士の子
  • 四月二十二日海の子生まれけり
  • 子の両手両足つかふ磯遊び
  • 海女の母待つ海の子の遊びかな
  • 島中が遊び場となる子供の日
  • 放られて海の泳ぎをしこまれし
  • 海の子のプール代りの太平洋
  • 息つめて海の子のもうひと潜り
  • むらさきの口びるをしてまだ泳ぐ
  • 海の子は海みて育つ雲の峰
  • 日焼子の太陽の香の総身かな
  • 夕焼へ向けて島唄歌ひけり
  • 夕焼の海みて家へ帰りけり
  • 海の子の踊る飛魚音頭かな
  • 少年の踊り上手の唄上手
  • 山芋を鮑の殻で掘りにけり
  • 元旦の太平洋で顔洗ふ
  • いくつもの椿の蜜を吸ふ子かな
  • 子の息に鳴きやどかりの動き出す
  • 卒業製作流木の丸木船

雪迎え

八島 ジュン

  • 理科室の角椅子の傷若葉風
  • 頬杖の視界の端を蜘蛛の糸
  • ががんぼの脚たたまれてたたまれて死
  • こっくりさん動くよ蜘蛛がまた来た
  • 体操部くるくるくると夏に入る
  • 焼きそばパンの焼きそばあふれ五月なり
  • 屈強の詩をくぅくぅと蟇くぅくぅと
  • 噴水の終いの水の重さかな
  • 蛇進む水をゼラチン質にさせ
  • 噴水の止めばたちまち星の池
  • 彗星の帰り来る谷時鳥
  • 詩を囁くは夏蝶の口吻か
  • 靴ひもの解ける法則体育の日
  • 川底の砂の湧き立つ秋日和
  • かげろうの今日と昨日の隙間より
  • 頭から蛇に変えるか足からか
  • 息絶えし虫の翅音月天心
  • 綿虫やなんかこうわやわやわや
  • 風に糸流して空の蜘蛛となる
  • 平均台の微かなる反り冬に入る

蚕の一生

水戸 勇喜

  • 毛蚕生るや朝日眩しく今日は
  • 戦時下の子らにサイレン桑苺
  • 壁掛けの時計高鳴る蚕部屋
  • 飼主の気配知るらし蚕の動き
  • 遣り返し利かぬ蚕の怒り肩
  • 山繭や一際大き日が落ちる
  • お蚕さんに天が下さる絹糸腺
  • 蚕吐く糸は蛹のシエルター
  • 荒草に捨蚕の意地の絡み合ひ
  • 繭籠る寸余のさなぎ何夢む

「繭つくる前の全身濡れてゐるか」

これは本年六月二十八日、「ことばの祭典」で受賞された小熊座同人大久保和子さんの作である。一読、中七下五に然り気なく妖しさを求めた表出に好感を受けた。また選者の先生方が何の様に講評されたかを拝聴したくも思った。そこで歳時記の例句の中に近似の句を探したが、掲句の奇抜さを並立し得る句を見付けることは出来なかった。

さて、蚕繭に触発され、且つて養蚕の仕事に関わった思い出を連ねたい。孵化した毛蚕は暫くは蠢きの後、桑葉に喰らい付き食欲旺盛で成長は早い。食餌の期間を「齢」、仮眠と脱皮の間を「眠」と云い五齢目頃に繭を作り始める。身を反らし頭を振り振り糸を吐く。その糸は一八〇〇m に及ぶと云う。繭を整え終えた蚕は蛹となり休眠に入る。翌春蛹は蚕蛾に変り産卵して世代を継ぐ。取り急ぎの懐古だったが以上があらましである。哀れ! 蚕蛾には餌を取る口は無く自ずと命の終りを告げる。

(勇喜)

 

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