小 熊 座 2025/12   №488  特別作品
TOPへ  INDEXへ戻る


特別作品

2026.vol.42 no.488

秋夕焼け

江原 文

  • 秋夕焼け故郷の訛りふと口に
  • ふるさとの行きも帰りも秋の蝶
  • まつすぐにすれ違いたり秋の人
  • 砂浜に愁思の足を濡らしをり
  • 身に入るや爪に残りし土の色
  • あつてなき国境憂う胡桃の実
  • 菊日和白杖の歩のまよひなく
  • 児らの踏む落葉は児らの音たてて
  • コロボツクルのかくれんぼうや胡桃の実
  • 宇宙ステーシヨン国境なき天の川
  • 星降るやテイラノサウルスの眸の潤む
  • 野にあれば石も仏や寒月光
  • 吊られ居る薬缶の口に冬日差す
  • 冬空にメタセコイアの一途かな
  • 深鍋の底に冬日や神の留守
  • 封泥の公印うすれ冬すみれ
  • 湯豆腐や国会前のデモ崩れ
  • 戦火と聖火となり合わせや稲実る
  • 追悼となる夕暮れの蟬の声
  • 残菊に日が当たりたる過疎の村

水に生る

杉 美春

  • うつらうつら羊水にある朧
  • 水に生る春満月の魚として
  • 鯉の背のとろりと揺らぐ春の水
  • 春雨の匂ふ仔猫を拾ひけり
  • 風死すや湖底に潜むカムルチー
  • 二百十日水底叩く雷魚の尾
  • 夜に喘ぐアクアリウムの金魚かな
  • しばらくはジュラ紀の魚竜昼寝覚
  • なめらかな鱗生えさう夜のプール
  • 指でたどるヒエログリフや石灼ける
  • 鮎の腹ぎらりとひかる疎水かな
  • 金龍と呼ばれアロワナ星飛べり
  • 地を滑り水を滑りて秋の蛇
  • 木洩れ日や目を細めたる秋の蛇
  • 足裏に引潮強き秋の海
  • 釣糸を投げて秋光引き寄せる
  • 秋の海ひかりまみれに盛り上がる
  • 鳶旋回すれば秋光メビウスに
  • 秋の水梳つてをりぬ猫の舌
  • 古代魚のつぶやく気泡冬銀河

松の芯

岡田 とみ子

  • 係留の船見て来し孕み猫
  • 三月と言へど潮風恋しかり
  • たんぽぽの絮に明日を鏤める
  • 古井戸に残されし幣陽炎へる
  • 心には視えるふるさと松の芯
  • 髪洗ふその後すぐに描く眉毛
  • 何度でも言ふよ枯葉よまた会おう
  • 汗もまた無言の言葉日の暮れる
  • 明日へは残せぬ命大夕焼
  • 詩嚢なら叩かれてこそ酷暑なる
  • 姿なき人を迎へる三月来
  • 先人の月日の雫竜の玉
  • 各々の夢の続きを月は知る
  • 海鳴りは父祖の声なり松の芯
  • 答へなき問ひに答へる四月馬鹿
  • 人間探求派などは知らずも秋麗
  • 縄文の里浜貝塚囀れり
  • 身のほつれ秋の水には明かさずに
  • 朝顔の蕾天向き貨車過る
  • 零さじと思へど萩の花零れ
 

© kogumaza