角川選書
定価1700円
平成14年刊
俳人の黒田杏子さんの聞き書きしています
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証言・昭和の俳句 佐藤鬼房(自選50句)
毛皮はぐ日中桜満開に 『名もなき日夜 昭和26刊』
切株があり愚直の斧があり 〃 〃
胸ふかく鶴は栖めりきKaO KaOと 〃 〃
青年へ愛なき冬木日曇る 『夜の崖 昭和30刊』
縄とびの寒暮いたみし馬車通る 〃 〃
鶺鴒の一瞬われに岩のこる 〃 〃
怒りの詩沼は氷りて厚さ増す 〃 〃
冬山が抱く没日よ魚売る母 〃 〃
齢来て娶るや寒き夜の崖 〃 〃
馬の目に雪ふり湾をひたぬらす 『海溝 昭和51刊』
女児の手に海の小石も睡りたる 〃 〃
悪霊のごと花びらは掬ふべし 〃 〃
月光とあり死ぬならばシベリヤで 『地楡 昭和50刊』
赤光の星になりたい穀潰し 〃 〃
陰に生(な)る麦尊けれ青山河 〃 〃
ひばり野に父なる額うちわられ 〃 〃
鳥食(とりばみ)のわが呼吸音油照り 『鳥食 昭和52』
跳ぶ幼女水かげろふの向岸 〃 〃
生きてまぐはふきさらぎの望の月 『朝の日 昭和55』
艮(うしとら)に怺へこらへて雷雨の木 〃 〃
もし泣くとすれば火男(ひよつとこ)頬かむり 『潮海 昭和58刊』
なぜポオの詩なのか朝の蛍籠 〃 〃
新月や蛸壷に日が生える頃 『何處へ 昭和59刊』
綾取の橋が崩れる雪催 〃 〃
蟹と老人詩は毒をもて創るべし 〃 〃
雪兎雪被(き)て見えずなりにけり 『半跏坐 平1刊』
松島の雨月や会ふも別るるも 〃 〃
山住の怖きは冬の真昼時 〃 〃
壮麗の残党であれ遠山火 〃 〃
半跏坐の内なる吾や五月(さつき)闇 〃 〃
蝦蟇(がま)よわれ混沌として存へん 〃 〃
寒暮光瀬頭の渦衰へず 『瀬頭 平4刊』
みちのくは底知れぬ国大熊(おやぢ)生く 〃 〃
みちのくのここは日溜り雪溜り 〃 〃
やませ来るいたちのやうにしなやかに 〃 〃
除夜の湯に有り難くなりそこねたる 〃 〃
残る虫暗闇を食ひちぎりゐる 〃 〃
羽化のわれならずや虹を消しゐるは 『霜の聲 平7刊』
縄文の漁(すなどり)が見ゆ藻屑の火 〃 〃
老衰で死ぬ刺青の牡丹かな 〃 〃
秘仏とは女体(じょたい)なるべし稲の花 〃 〃
海嶺(かいりよう)はわが栖なり霜の馨 〃 〃
帰りなん春曙の胎内へ 『枯峠 平10刊』
時絶って白根葵に口づける 〃 〃
松の蜜舐め光体の少年なり 〃 〃
鳥寄せの口笛かすか枯峠 〃 〃
あてもなく雪形の蝶探しに行く 〃 〃
北冥二魚有り盲(メシ)ヒ死齢越ユ 〃 〃
恋に死ぬことが出来るか枯柏 〃 〃
観念の死を見届けよ青氷湖 〃 〃
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